ラウスの安定判別法を用いることで、ロボットなどの制御システムが安定か不安定かを判断することが出来ます。
前回の記事では、ラウスの安定判別法を用いるために必要な、ラウス配列を作成する方法を紹介しました。
今回は、このラウス配列を作成する際の特別なケースについて紹介します。
ラウスの安定判別法とラウス配列
前回までの復習です。
制御系の伝達関数から得られた特性方程式が、
$$ D(s) = s^4 + 2 s^3 + 3 s^2 + 4 s + 1 $$
で与えられた場合のシステムの安定性をラウスの安定判別法を用いて判別します。
この特性方程式よりラウス配列を作成すると、
$$ \begin{eqnarray} \begin{array}{c|ccc}s^4 & 1 & 3 & 1 \\ s^3 & 2 & 4 & 0 \\ s^2 & \frac{2\cdot3-1\cdot4}{2}=1 & \frac{2\cdot1-1\cdot0}{2}=1 & \\ s^1 & \frac{1\cdot4-2\cdot1}{1}=2 & & \\ s^0 & \frac{1\cdot1-1\cdot0}{1}=1 & & \\ \end{array} \end{eqnarray} $$
となります。
作成したラウス配列の第一列より、
$$ \left[ 1, 2, 1, 2, 1 \right] $$
すべての符号が\(+\)(プラス)で一致しているため、このシステムは安定であると言えます。
このラウス配列を作成する際に次の2つの特別なケースが生じることがあります。
- 1つの要素が0になる場合
- 全ての要素が0になる場合
この2つの特別なケースについて、それぞれの対処法を紹介します。
1つの要素が0になる場合
特性方程式\(D(s)\)が、
$$ D(s) = s^4 + 2 s^3 + 2 s^2 + 4 s + 5 $$
で与えられる場合のラウス配列を作成していきます。
この特性方程式よりラウス配列を作成すると、
$$ \begin{eqnarray} \begin{array}{c|ccc} s^4 & 1 & 2 & 5 \\ s^3 & 2 & 4 & 0 \\ s^2 & \frac{2\cdot2-1\cdot4}{2}=0 & \frac{2\cdot5-1\cdot0}{2}=5 & \\ \end{array} \end{eqnarray} $$
と\(s^2\)行の1つ目の値が0になってしまいます。
この0をそのまま使用すると、
$$ \begin{eqnarray} \begin{array}{c|ccc} s^1 & \frac{0\cdot4-2\cdot5}{0} & & \end{array} \end{eqnarray} $$
となり、次の\(s^1\)の行で0での割り算が発生してしまいます。
この状態を避けるために、1つ目の要素に0が発生した場合は\(\varepsilon\)を用いてラウス配列を作成していきます。
\(\varepsilon\)を用いてラウス配列を作成
要素が0になった個所を\(\varepsilon\)に置き換えてラウス配列の作成を続けます。
ここで用いる\(\varepsilon\)は、限りなく0に近い値を表しています。
先程の特性方程式について、\(\varepsilon\)を用いながらラウス配列を作成すると、
$$ \begin{eqnarray} \begin{array}{c|ccc} s^4 & 1 & 2 & 5 \\ s^3 & 2 & 4 & 0 \\ s^2 & \frac{2\cdot2-1\cdot4}{2}=0 \rightarrow \varepsilon & \frac{2\cdot5-1\cdot0}{2}=5 & \\ s^1 & \frac{\varepsilon\cdot4-2\cdot5}{\varepsilon} & & \\ s^0 & \frac{\frac{\varepsilon\cdot4-2\cdot5}{\varepsilon}\cdot5-\varepsilon\cdot0}{\frac{\varepsilon\cdot4-2\cdot5}{\varepsilon}} = 5 & & \\ \end{array} \end{eqnarray} $$
となります。
作成したラウス配列の第一列より、
$$ \left[ 1, 2, \varepsilon, \frac{\varepsilon\cdot4-2\cdot5}{\varepsilon}, 5 \right] $$
と表される数列の符号が全て一致していればシステムは安定であると言えます。
この数列について、3番目の\(\varepsilon\)の符号が\(-\)(マイナス)だと、他の\(1,2,5\)と符号が異なるため、\(\varepsilon\)の符号は\(+\)(プラス)である必要があります。
3番目の\(\varepsilon\)の符号が\(+\)(プラス)の場合、4番目の分母(\(\varepsilon\))の符号はそのまま\(+\)(プラス)になります。
この時、分子の符号は
$$ \varepsilon\cdot4-2\cdot5 $$
より求められるのですが、\(\varepsilon\)の定義より\(\varepsilon\)は限りなく0に近い値となっているため、
$$ \varepsilon\cdot4-2\cdot5 \Rightarrow 0\cdot4-2\cdot5=-10$$
となり、分子の符号は\(-\)(マイナス)になります。
よって、数列内で符号が
$$ \left[+,+,+,-,+\right] $$
のように変化が発生しているため、このシステムは不安定であることが分かりました。
まとめ
今回は、ラウス配列を作成する際の特別な例として、一つの要素が0になる場合についての対処法を紹介しました。
1つの要素が0になった場合でも、その値を\(\varepsilon\)で置き換えることによりラウス配列を作成し、安定性を判別することが出来ます。
次回は、もう一つの特別な例である全ての要素が0になる場合についての対処法を紹介していきたいと思います。