PID制御とは、古典制御の中の一つの手法で、フィードバックを用いて構成されています。
制御系に入力する目標値と実際の出力値との偏差およびその偏差の積分と微分の3つの要素を用いてロボットなどの制御を行います。
今回は、PID制御を用いる前段階として、シンプルなP制御を例に制御系内のゲインをシステムが安定になるように制御する方法を紹介していきます。
P制御とは
P制御(比例制御、Proportional control)とは、制御システムの出力値\(y\)と目標値\(r\)との偏差\(e\)について、比例ゲイン\(K_p\)を掛け合わせて行うフィードバック制御の事です。
時刻\(t\)での偏差\(e(t)\)は、出力値\(y(t)\)と目標値\(r(t)\)より、
$$ e(t) = r(t) – y(t)$$
と求めることが出来ます。
この偏差\(e(t)\)に比例ゲイン\(K_p\)を掛け合わせて入力\(u(t)\)として制御対象を目標値に近づけるように制御していきます。
この比例ゲイン\(K_p\)が大きいほど目標に近づく時間が短くなりますが、あまりに大きい値を用いるとシステムが不安定になり、目標値通りに制御が出来なくなる事があります。
今回は、ラウス・フルビッツの安定判別法を用いて、制御系が安定である条件を確認し、この比例ゲイン\(K_p\)が選択できる範囲を算出していきます。
使用するモデルと伝達関数
今回は、図のようなフィードバックシステムを用いて、比例ゲイン\(K_p\)を用いたP制御を行います。
P制御を行う制御対象\(G(s)\)は、
$$ G(s) = \frac{{K \omega_n}^2}{s^2 + 2 \zeta \omega_n s + {\omega_n}^2} $$
という2次系のシステムを用います。
ここで、\(\omega_n\)は固有角周波数、\(\zeta\)は減衰比を表しています。
また、\(K\)は制御対象内のゲインを示しています。
今回は
$$ H(s) = 1 $$
とします。
この制御対象\(G(s)\)と比例ゲイン\(K_p\)によるフィードバックシステム全体の伝達関数\(T(s)\)は、
$$ T(s) = \frac{K_p \frac{K {\omega_n}^2}{s^2 + 2 \zeta \omega_n s + {\omega_n}^2} }{1 + K_p \frac{K {\omega_n}^2}{s^2 + 2 \zeta \omega_n s + {\omega_n}^2} } $$
$$ = \frac{K_p {\omega_n}^2}{s^2 + 2 \zeta \omega_n s + {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2} $$
と算出することが出来ます。
この算出したフィードバックシステム全体の伝達関数\(T(s)\)についてラウス・フルビッツの安定判別法を用いて、システムを安定に制御することが出来る比例ゲイン\(K_p\)の範囲を求めていきます。
比例ゲインとシステムの安定性
先程算出したフィードバックシステム全体の伝達関数
$$ T(s) = \frac{K_p {\omega_n}^2}{s^2 + 2 \zeta \omega_n s + {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2} $$
から、ラウス・フルビッツの安定判別法を用いるために特性方程式\(D(s)\)を求めます。
特性方程式\(D(s)\)は伝達関数\(T(s)\)の分母にあたるため、
$$ D(s) = s^2 + 2 \zeta \omega_n s + {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2 $$
で表すことが出来ます。
この特性方程式\(D(s)\)に対して、ラウス・フルビッツの安定判別法を用いるためにラウス配列を求めます。
$$ \begin{eqnarray} \begin{array}{c|cc} s^2 & 1 & {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2 \\ s^1 & 2 \zeta \omega_n & 0 \\ s^0 & \frac{2 \zeta \omega_n \left({\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2\right) – 1 \cdot 0}{2 \zeta \omega_n}= {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2 & \\ \end{array} \end{eqnarray} $$
求めたラウス配列の第一列より、
$$ \left[ 1, 2 \zeta \omega_n, {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2 \right] $$
の数列を抽出します。
この数列内の全ての要素の符号が一致していればシステムは安定なので、
$$ {\omega_n}^2 + K_p K {\omega_n}^2 > 0 $$
であればシステムは安定であると言えます。
よって、比例ゲイン\(K_p\)が
$$ K_p > -\frac{1}{K} $$
であれば、システムは安定になると言えます。
つまり、制御系が不安定になって出力が発散することはありません。
これらから、一般的に比例ゲイン\(K_p\)は正(\(+\))の値を設定するので、基本的にはP制御を用いた安定な2次系システムに対するフィードバック制御システムは、安定に動作することが分かりました。
追記:制御対象\(G(s)\)を2次系システムから3次系システムに変更した場合については、こちらの記事を参考にしてください。
まとめ
今回は、P制御を用いてロボットなどのシステムを安定に制御するために、比例ゲインを設定出来る範囲を算出する方法を紹介しました。
次回は、PI制御を用いた同様のシステムを安定に制御出来る各ゲインの範囲を算出する方法を紹介していきたいと思います。